三日月の記憶
邑 咲

ク−ロンフロントに希に現れる三日月。
ク−ロンナビのハニ−レディは三日月の日になると、昔を思い出す。
今日は1997年5月22日。三日月の出る日である。

ハニ−レディは昔は蘭花という名前であった。
男のも勝る運動力とその可憐さから、男を魅了していた。
ある日、蘭花に一人の男が告白をした。
「蘭花さん、付き合ってください。」
しかし、蘭花の家庭は厳しい家庭。こんな付き合いなどまだ早い蘭花は、一度断った。
男はその時はシブシブと家に}帰って行った。
が、しかし男は蘭花の事お諦めずにいた。
無理矢理、蘭花を連れ出し、その上暴行を加えたのだ。
「どうして俺じゃだめなんだよ?」
男は蘭花が何も反応を示さない事を確かめるとその場を去った。

2時間後

蘭花は意識を取り戻したが、もうろうとしたままだった。
フラフラと重い足取りで家に向かった。その途中、工事している場所で蘭花はころんでしまった。その時不幸にも蘭花の右目はレンガにぶつかってつぶれてしまった。
「ああああああ!!!もう、死にたい、、、、。」
蘭花は右目を手で覆いながら家路についた。
「おお、蘭花遅かったじゃないか。ん?どうしたんだ?その右目は。」
蘭花は、暴行を受けた事を父にはなした。すると、父は怒った。
「この不埒は娘め!我が家の恥だ!出て行け。明日の朝に出て行くんだ!」
蘭花は勘当されてしまったのだ。蘭花は家出の最後の夜を泣きながらすごした。

翌朝

蘭花は置き手紙を置いて家を去った。自分の村から外に出た事の無い蘭花は、右も左も
わからぬまま、いろいろな所を転々とした。
「おい、君。ちょっとまちな。」
蘭花を呼び止める声が聞こえた。
「なんですか?私になにか?」
「君、美人だね−。その右目がもったいないが。まっいいか!ところで劇場で踊り子やらない?」
「でも、、、、」
「右目の事だろ?大丈夫かつらで隠せばいいさ。」
蘭花はこの時、「もうどうでもいい。」と思っていた。
「私でよければ。」
蘭花はこうして、劇場のある龍津路に行った。
そこで何年もお芝居の勉強をし、ようやく一人前の踊り子となった。
しかし、蘭花の右目は同じ仲間との溝を深めるばかりだった。
「ねえ、知ってる?明日三日月なのよ。久しぶりにおおきな劇があるの。」
蘭花はその事を知っていた。

翌日

踊り子達は皆かつらを被り劇に臨んだ。
劇は最高潮に達した。いよいよ、蘭花の出番だ。
蘭花が出てくると急に風が強くなった。
「ああ!」
その次の瞬間蘭花のかつらは風で飛ばされた。かつらをかぶる時は、髪をオ−ルバックにしなければならない。蘭花の右目が大衆の面前で現れた。
「おい、なんだありゃ?右目がないぞ。」
「お母さん、怖い。」
右目の異様さに客は脅えた。劇はぶち壊しとなった。
劇が中断されると蘭花は劇場のオ−ナ−に呼ばれた。
「恥さらしめ!もうここで働かないでいいぞ。出てってくれ!」
今度は劇場からも見捨てられた。
劇場をあとにした蘭花は、親友でもあるブロマイド屋の所に行った。
「残念ね。もうあなたの踊りが見れないなんて。」
「私、、、死んだ方がいいよ。」蘭花はその場に泣き崩れた。
そこに、ブロマイド屋の平手打ちが飛んだ。
「なにバカな事いってんの!あなたはまだ若いんだから死ぬなんて考えるんじゃないよ!
私が仕事を見つけてくるから、そこでがんばりな。」

数日後

「蘭花!ナビやてみないかい?」
「ナビって、、、?」
「道案内人だよ。アンタこの街のナビになればいい。この街好きだろ?」
「うん。」
「ようし、決まりだ!明日案内屋に行くといい。あっ、でも蘭花なんて名乗っちゃだめよ。
理由は聞かないで。ハニ−レディなんかどうかしら?」

翌日

「君か、、、ナビになる奴は。どこの地区を担当するつもりだ?名前は?」
「名前はハニ−レディ、担当は龍津路。」
そこでハニ−は訓練を受け、一人前のナビとなった。
これが、ハニ−レディの三日月の記憶だ。
風水師が訪れるのは3年後の事だった。


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